見て、【Hänsel】 お兄ちゃん。ほら、あそこに家があるわ!
でも、【Gretel】 それは、怖い魔女の家かも知れない……けど
■『フンパーディンク:歌劇《ヘンゼルとグレーテル》 英国ロイヤル・オペラ2008』 日本コロムビア
メルヘン・オペラの代表作、エンゲルベルト・フンパーディンクの『Hänsel und Gretel』。2003年の『魔笛』の夜の女王が素敵すぎて、ディアナ・ダムラウの名前をたどってみたらこれを発見、観てみることにした。
さすがブルーレイなだけあって、画質は良好。DVDの『魔笛』に感じられたようなザラつきがほとんどない。音質もたいへんよろしい。ステレオの環境しかないけど、これもたぶん『魔笛』をだいぶ上回ってる。日本盤の『魔笛』も早いところブルーレイで出ないかしら。輸入盤には日本語字幕もドイツ語字幕も入ってないんだよね。
全3幕構成。台詞は徹頭徹尾、擬音や高笑いまで余すところなく歌詞。1幕始まってから終わるまで、ほとんど切れ目なく演奏が続く。上演時間は110分。たぶんそれほど長くない部類だけど、歌と曲がぎっしり詰め込まれている、というか歌と曲でできているのでかなりの充実感を味わえた。アンゲリカ・キルヒシュラーガーのヘンゼル、ディアナ・ダムラウのグレーテルが素晴らしい。しかも舞台の上での動きがなかなかに激しいので見ていて飽きない。歌いながら跳ねまわる駆けまわる、そして食べる。ミルク(液体というか粉状だった?)に豆、酒(瓶の中身は水なのか?)、イチゴにサンドイッチ、お菓子の小さな家(まさかと思ったら本当に食べた)、レーズンにナッツ、きわめつけが背中をドン!されてオーブンをバタン!された魔女(まさかと思ったらこれも本当に食べた)。大の大人2人が幼い兄妹を達者な歌唱で演じること自体にも(無粋とはわかっていても)何かしらシュールなものがあるうえに、脚本というか演出がこれまたシュールで面白かった。眠りの精の挙動、ヘンゼルとグレーテルの夢の舞台を無言でゆっくり整えていく天使達(動物の被り物にびっくりした)、クリスマスに両親から受け取ったプレゼントのサンドイッチを神妙な顔でたいらげるふたり(空腹は切実な問題だけどいかんせん背景となっている天使達と両親の存在に変な笑いがこみあげてくる)、やたらメルヘンチックな格好で霧吹きをシュッシュッとやる朝露の精、何よりまず衣装に突っ込みをいれたい魔女、捕らえられたヘンゼルの腕や足を引きだしから生やす調理台、魔法で人型クッキーに変えられた子ども達とつり下げられて調理されるのを待つ子ども達、オーブンから出てきた魔女ケーキ、それに群がる子ども達と両親、気にする様子もなくあちこちもぎ取って食べ始める彼らの様子にドン引きする兄妹。本当に観ていて飽きない。『魔笛』の時と違って舞台がかなり手狭に見えたけど、調理台やオーブン、クッキーと子どもの収納場所などの大道具の愉快さのおかげもあってか、それが全然いやじゃなかった。
飢餓や労働の苦しさはともかく、口減らし、子どもを捨てる親はかなり大胆に改変されているため、残酷さはだいぶ緩和され、家族愛を訴えかける内容になっているのが興味深い。子を捨てたのは母親だけで父親と子ども達との仲は良好である、なんてパターンはこれまでにも見たことはあったけど、こういうものもあるとは知らなかった。もともと子ども向けにつくろうとしていた、ということで甘くしたのかな。子どもが魔女を殺すことで自分を捨てた母親をも(心理的に)殺して自立する、親殺しのような物語だと思っていたから、こういうのは新鮮。お菓子は食べればいずれ尽きるし、食い扶持は減らないのだから貧しいことに変わりはないという先を思うと少々能天気すぎるという気はするけど、そこを最後にうまくまとめているのが信仰というわけなのかな。
役柄の都合上、低音が父親ペーターしかいないのがちょっと残念かも。しかし乙でした。少年聖歌隊と児童合唱団の面々の愛らしさに心が和む。
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